筆者:ウィンストン・フォード

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気候変動解決の鍵は、未だ存在しない言葉にかくれている

気候変動を理解するための鍵はありふれた風景の中に潜んでいる。それにも関わらず、気候変動解決の鍵はいまだ存在しない。問題を語るための共通言語が存在しないから、問題をひも解く鍵もみつからない。言語の不在が、この問題について話すのを難しくしている。語れないから、研究もできない。問題を語るための言葉が存在しないために、問題を解決することができないのだ。

だからかわりに、既に存在する言葉から始めるとしよう。気候変動を理解するうえで重要で、我々人類にとって非常になじみぶかい言葉。それは、ハイドロジー(水学)。つまり「水の研究」だ。

ハイドロジーという言葉は水に関する経験や知識体系においてよく用いられる言葉だ。この言葉は大学の学部名や、政府機関、軍事機関などでもよく用いられている。スエズ運河、パナマ運河、フーバーダム、ナイアガラの滝なども、ハイドロジーに関連した工学の功績とだということができる。アメリカの二千を超えるダム、数え切れないほどの橋や道路といったものも、ハイドロジーの知識に基づいている。空から降り注ぐ雨粒はすべて、小川に流れこみ、土壌に浸透し、貯水槽や湖、海や地下水層に流れこむ。

バイソンのするどいひずめにより、草の根が2メートルと地下に延び帯水槽の水を吸収する

例えば、オガララ帯水層は八つの州にまたがる巨大な地下水層で、何億年もまえから存在する。これは、化石水(太古の昔は海だった地域が、長い年月の間に陸となり、海水が地中に残存して地下水となったもの)だ。その名前の起源である原住民を開拓者が排除し、バイソンのかわりに畜牛を導入した。そして畜牛の餌のために、草原を麦畑に変えてしまったことで、水の循環システムが崩壊した。これが北米史上最大の災害、ダストボウルを引き起こした原因となった。同じ時期に、同国で世界恐慌が起こったことはただの偶然ではない。これほどの過ちを犯しながら今もなお、オガララ帯水層の水の消費は加速するいっぽうだ。自然の循環サイクルの許容量越えた量の水を、私たちは使ってしまっている。だが少なくとも私たちは気がついた。そしてこの問題についての認知度が上がるにつれて、回復計画も進む。


2004年、中国、黄土高原。緑地化活動

史上最大の土地再生プロジェクトの成功例が中国の黄土高原だ。この再生プロジェクトの成功もハイドロジー研究によって得られた知識と、技術の成果と言うことができるだろう。黄土高原はもともと、農業と文明の発祥の地で、何世紀もの間、肥沃な土地だった。しかし、人口が増加し、伐採が進み、過度の放牧がおこなわれた。富裕層は資本を増やすために高原を離れて北京へ向かい、貧困層だけがそこに残って、なんとか生き延びなければならなかった。その後も、何千年ものあいだ土地を荒らし、高原は砂漠と化した。その砂漠が十年がかりで再び緑地化された。簡潔なルールと合理的なデザイン、熱心な仕事の結果、水の循環システムを回復させたのだ。

十年がかりで緑地化成功する中国、黄土高原

我々が食べるものも、水からできている。だから水は我々にとって親しみぶかいものだ。水なしで長期間生きることができる生き物に我々は驚嘆する。地球の表面も含め、ほぼすべての生き物は水から成り立っている。しかし、水のほかにも地表を覆う「何か」がある。その「何か」も循環=サイクルをもっている。そこには、水と同じように「日々のサイクル」、「季節のサイクル」、「一年を通したサイクル」があり、何億年もの年月が繰り返されてきた。それは水と同様に、我々の住むこの星と、生き物にとっては不可欠なもので、さらに他の惑星の表面さえも覆っている。しかし、このことに関する研究を言い表すための言葉がない。おかしなことだ。

存在しない言葉を想像するために、少し空想を広げてみるのはどうだろう。例えば他の惑星から宇宙人専門家がやってきて、我々の言語にない言葉を導くという場面を思い浮かべてみる。博識な科学者、エンジニア、アーチスト、詩人らが、銀河の彼方から集まってきて、それぞれの惑星の様々な問題を研究し、建設的に未来を創造しようとする意志のある惑星の住民にのみ、研究成果を共有してくれるとしよう。そのグループが我々の星にもやってきて、我々人類にまだその可能性や希望があると判断し、協力してくれるとする。

2016年、惑星間調査団が訪れる

我々人類は現在、地球が直面している問題について話す。問題を証明するためのデータを集めるには時間がかかるが、私たちの星が発熱状態にあると伝える。この状態は不安定で、しかもこの星の気温が上昇しつつあるということを伝える。

「そのとおりです」惑星間調査団は言う。「そのことは、遠くからでも一目瞭然でしたよ」

「これは、正常な状態でしょうか?」我々は尋ねる。

「あなたがた住民は、この気温は正常な状態だと思いますか?」

「はい」我々は答える。

巨大なディスプレーを使い、地球の住人は氷が溶け、海の水温が上昇し、砂漠化が進み、火災や洪水が起こっている様子を見せたとする。惑星間調査団もまあまあ感銘をうける。

「私たちは随分とこの星について研究しました。私たちがジオロジーと呼ぶ分野です。私たちの星の地表は水で覆われているため、水が食物や天候に及ぼす影響について随分調査しました。この分野をハイドロジー(水学)と呼び、多くの研究をおこない、成果をあげました」

「それはご苦労様」惑星間調査団は少し戸惑った様子でこう続ける。「この星の湿度の問題を解決するために我々が呼ばれたのであれば、ハイドロジーについて協議しましょう。でも、今、問題にされているのは温暖化のことですよね。水が原因で地球の気温が上がっているのではないことは承知ですよね?」

「もちろんです!」我々は答える。

「どこから熱がきているのかは、わかっています。地球のコアの温度が上昇しているのは確かですが、それは太陽の熱に比べれば、ささいなものです」惑星間調査団は地球人がそこまで無知ではないことを知って、少し安心する。地球人は光合成や太陽エネルギー、溶解について説明を続ける。

「太陽光についての研究のいい事例ですね。ところで太陽光についての研究は何と呼ばれているのですか?」

私たちは少し混乱し

「何ですか?」

「太陽光についての研究ですよ」

Photo Credits:

Billyburg Bridge, Winston Ford

Yellowstone Bison, Chris Patrianakos

Loess Plateau, Xi’an Center of Geological Survey

Third Type Encounter, Fred-H

翻訳:

中川伊希、日下部隆太

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